磯部で食べる本格洋食。フレンチ出身のシェフに見る「料理人」の姿

磯部温泉街に佇む、緑に囲まれた一軒のレストラン。

ここ西洋亭では、フレンチ出身のシェフが腕によりをかけてつくる様々な洋食メニューを楽しむことができます。

こちらは、冬のメニューであるトマトソースパスタ。麺には群馬の名産・こんにゃくの粉が練り込まれており、通常のパスタ麺よりもプリッとした歯切れのよい食感ですが、言われないと気づかないほど旨味もたっぷり。トマト、ほうれんそう、お肉のソースもよく絡みます。

 

お肉のランチは、赤ワイン&きのこソースと共にいただくハンバーグ。しっかりとした肉の食感にペッパーが効き、食べ進めるのがもったいないくらい……。

磯部温泉街は飲食店が少ないため非常にありがたいお店で、現地の方から旅行者の方まで利用層はさまざま。

 

そんな西洋亭のシェフは、フレンチ出身の前田さんです。

ご厚意でランチをいただいた後、今回は前田さんの経歴から料理の哲学まで様々なことを伺っていきたいと思います。

フレンチをベースにして展開する、ちょっと贅沢な料理

「サツマイモとキノコの塩味」のパスタランチ。秋の食材が豊かに詰め込まれたパスタは彩りも鮮やか。

─ランチごちそうさまでした。パスタのソースにさつまいもを使うという発想に驚きましたが、本当に美味しかったです…!

前田さん

これは、甘さと塩気が調和するように作ったものです。さつまいもを潰しながらキノコと一緒に炒めて、秋の旨味を混ぜ込みました。

─お店は基本的にお一人でオペレーションされていますが、メニューの考案も前田さんが?

前田さん

そうですね。もちろん原価を考えながらですが、食材に関しては季節のものを必ず使うようにしています。

 

日本には季節が4つあるわけですから、そこに合わせて食材を組み合わせているんです。肉でも、魚でも、パスタでも、ソースでも。

魚ランチのメインは、「サワラムニエル 塩こんぶクリームソース」。外はカリッと中はふわふわ、完璧な焼き加減。

─なんというか、普段自分たちが食べている食事よりも一歩高級な気がします。それにしてはお手頃価格ですけど…。

前田さん

やっぱり料理人として、「他と差をつけてやんないと」っていう気持ちがありますから。そこは長いことフレンチの現場にいたのが基礎になってるかもしれません。過去に10年くらい、敷島にあったフランス料理店に勤めていたので。

─なんと、フレンチ出身なのですか…!

前田さん

フレンチ以外にも色々やってきましたけどね。イタリアンも経験したし、居酒屋にいたこともありますよ。

 

この店に入ったのが5年前くらいだけど、それまでは隣の磯部ガーデンの厨房で天ぷら揚げてたし(笑)。

─となると、あまり料理の「ジャンル」みたいな分け方にこだわりはない…?

前田さん

まあでも、自分のベースはあくまでフレンチかもしれないですね。そこは曲げずに、フレンチを出発点にしながら広げているイメージです。

欧風料理レストランでの経験から見えたこと

─調理を生業にすることは、いつごろから決めていたのですか?

前田さん

高校の時分から決めていましたね。だからもう総合すると30年以上になりますかね。

 

勉強するのが苦手だったってのもあるけど、何かを作るのが好きだったんですよ。当時から家でちょこちょこ料理してましたしね。

 

まあでも、よく今まで嫌にならずに続けてきたなと自分でも思います(笑)。

─料理の学校などには通われたのですか?

前田さん

1年間は通ったんだけど、そのあとはもうお店に入りましたね。自分の時代は高卒で働くことは当たり前だったし、実際、どこかに修行に入っちゃったほうが早いと思いますよ。学校と現場は全然違いますからね。

─それはやっぱり、ピークの忙しさなども関係していますか?

前田さん

忙しさもそうだし、自分の思い通りにならないことで諦めちゃうというか。でも、料理ってそんな簡単なものじゃないですから。最初はある程度いろいろを我慢しながら、その中でいかに自分のものにしていくかが勝負です。

 

どんな仕事にも当てはまるかもしれませんけど、料理人は特にきついほうだと思います。時間は長いし、休みも少ないし。

─これまでに経験された仕事場で、特に印象に残っているところはどちらですか。

前田さん

いろいろあったけれど、自分が変わったきっかけになったのは「りんでんば〜む」での経験ですね。あそこは欧風料理で、ガチのイタリアンというより少しラフな感じでした。8年くらい居ましたかね。

─フレンチとは違う価値観があったというか。

前田さん

そう、それまでガチガチでフレンチをやってきわけですけど、フレンチって基本的に「店やシェフの出したいもの」が軸なんですよ。自分がいた店がそういう店だった、というのもあるんですけど。

 

とはいえ実際に技術はものすごかったし、それこそシェフが帝国ホテルの下でやってた人だったから、その流れもある店で。原価がかかりすぎて今では絶対にできないですね。

前田さん

でも、「りんでんば〜む」はお客さん第一でした。そこで働いてから視野が広がって、お客さんのことを考えられるようになってきたというか。

料理人って、同じとこにずっといると考えが凝り固まっちゃうんですよ。ある程度のところで。だから、技術にしても経営のことにしても、店に入るごとに「絶対自分のもんにする」っていう気概が要りますね。

─なるほど……。料理に対する考え方って、実は多様なのですね。ふだん調理をしてる時は、どんなこと考えていますか?

前田さん

やっぱりお客さんの笑顔ですよね。料理を提供した瞬間の反応を考えながら、調理したり盛り付けたりしています。

 

お金をいただいている以上ちゃんとしなきゃいけないし、そこはね、絶対ブレないようにやってますよ。どうやったら、どういうものを出したらお客さんが喜ぶかっていうのは、常に考えています。

西洋亭の歴史と

─西洋亭ですが、元々はホテル「磯部ガーデン」内の一角にあったと伺っています。

前田さん

そうですね。磯部ガーデンの中に「さくら」っていう名前のホールというか、小さい宴会場があるんですけど、そこにありました。12、3年前くらいですかね。

─もともと磯部ガーデンの厨房にも入られていたんですよね。

前田さん

そうです。自分がちょうど仕事探してたときに紹介されて、とりあえずガーデンのほうに入ることになったんです。ただ自分がもともと洋食出身だから、いずれは西洋亭に……っていう話はあったんですけど。それで2年くらい働いたのちに、こっちに来る話が来たので。

─以前のシェフがいらっしゃって、そこに前田さんが交代する形で入ったわけですか。

前田さん

そうなりますね。とはいえ料理メニューも新しくして、料理する人間も変わったわけですから、昔に食べに来たお客さんがあらためて今いらっしゃったら驚いちゃうかもしれないですね。全然違うので……。

─このクオリティの料理が食べられるお店は、自分の周りではあまりないかもしれません。

前田さん

だからこそ、どんどん広めてもらいたいですね。特に若い世代に。自分で言うのもなんだけど、この価格でこの料理が食べられるのはレアだと思います。

─ちなみに、今後の展開はどのように考えていますか。

前田さん

どうですかねえ……。こんな時代ですしね。あまり大きいことは言えないですが、やっぱり「自分のお店をやりたい」っていう目標はあります。それはずっと持ってるものですけど、タイミングもありますしね。

 

直近の夢としては、パンを自分で作ってみたいですね。ただ器具も車一台分の金額だし、なかなか難しいとは思うんですけどね。

─前田さんの作るパン、絶対美味しいと思います。もう食べたい。

前田さん

自家製パンを作って、販売もしてますとなれば少し目玉になると思うんですよ。それで、ぜひ料理も一緒に食べてもらいたいです。

─パンを売ればすぐに回収できちゃう気もします。実現を祈ります……!

お店の情報

いそべの森のレストラン 西洋亭

所在地:群馬県安中市磯部1丁目6−5

営業時間:11:30~14:00 17:30〜20:00

定休日:月曜日、火曜日、第3日曜日の夜

この記事を書いた人

市根井

群馬県出身・在住。小さな地域編集プロダクション、合同会社ユザメ代表。
地域の持続と豊かな暮らしのために走り回っています。